薬学生から医学生、そして医師へ

薬学部から医学部に学士編入した医師によるブログ。初期研修医として日々研鑽中。実はチョコ屋さんでもあります。

日本の肝移植の現実

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先日、肝移植の講義を受けていて、日本の移植の現状やばいなあって感じた。

日本の肝移植のうち、脳死肝移植 : 生体肝移植 = 1: 10 くらい。

生体肝移植とは、読んで字のごとく生体から生体へと肝臓を移植すること。
つまり生きている人の正常な肝臓の一部を切除して、病気になった人に移植する。

 病気でもなんでもない人にメスをいれることになる。
教授が言った。「このドナー(臓器をあげる人)のメリットってなんだと思う?」

ドナーの身体に何も悪いところはない。医学の基本は、リスクを犯してでもメリットが上回るからメスで切ったり、薬を投与する。このドナーにとっては、リスクしかない。

強いていうなら、このドナーにとってのメリットは、レシピエント(臓器をもらう人。生体肝移植の場合、多くは親族)の命を助けることができるという精神的メリットくらいである。

果たしてこれは健全な医療の姿なんだろうか。

生体肝移植によるドナー肝摘出で命を落としているドナーもいる。
相手の命を助けたいために、健康な身体を提供し、亡くなっている。

事実、アメリカではドナーの安全を優先し、生体肝移植はほぼ行われていない。

未だ日本ではたくさん行われている。

一方で、脳死肝移植はどうだろう。

アメリカでは7000例を超えているが、日本は100例にも満たない。

アメリカの人口は約3億3,000万人で、日本の人口は1億2,000万人である。

単純な人口比以上の差がアメリカと日本の脳死肝移植数の差にあることがわかる。 

 

なぜこんなにも脳死臓器提供が日本では少ないのだろうか。

2009年にWHOが移植ツーリズムを禁止した。日本は自国で臓器を確保する努力をせずに、お金をもって海外に移動し、アメリカで移植を受けている。日本人がアメリカで移植を受ければ、当然移植を受けるはずであったアメリカ人がひとり移植を受けれなくなる。

WHOはこの事実をまずいとおもったのだろう。
WHOが移植ツーリズムを禁止してから、日本は慌てて臓器移植法を改正した。

誰かが、「外からの圧力がかからないと何も変えない。なんとも日本人らしいよな。」

そう言っていて、たしかになと思った。

   

以下に臓器移植改正前と後の違いを羅列する。

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これだけ内容が変わった。
さあ、日本の脳死臓器提供は増えたのだろうか。

結果としては「脳死」臓器提供数は増えた。しかし、重要なのは提供臓器の総数はあまり変化していないということ。

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つまり、今まで心停止で臓器提供をしていたような移植に関心がある層が脳死臓器提供を選択するようになっただけで、無関心層に変化は起きていないということ。

運転免許証や健康保険証など僕らがいつも持っているものの裏に臓器提供の意思表示の欄がある。

どれくらいの人がここに記載しているのだろうか。

「提供しません」という選択肢を選ぶことが悪いことではなくて、意思表示をすることが大事。

日本では、意思表示をしないと提供意思がないとみなされるOpt in方式をとっている。

しかし、フランスやスペインは意思表示をしないと提供意思があるとみなされるOpt out方式を採用している。

つまり、デフォルトが「提供意思あり」なのです。

”臓器提供意思表示には,「オプトイン」と「オプトアウト」という2つの制度があります。オプトインは,米国,英国,ドイツ,そして日本のように,臓器提供したい場合にその意思表示をする方式です。オプトアウトは,フランスやスイン,北欧などで採用されていて,提供したくない場合に意思表示する方式です。いずれの制度も,提供しない人の意思を変えさせたり,負担を掛けたりする仕組みではありません。デフォルト設定と異なる選択をする場合でも,意思表明のコストは臓器提供意思表示カードに丸をつけるだけというわずかなものです。しかし,提供を承諾している人の割合は,オプトイン方式のドイツは12.0%であるのに対し,オプトアウト方式のフランスは99.9%と大きな違いが生じています” 

(https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03262_05#bun)より

 ここで注目したいのは、

提供を承諾している人の割合は,オプトイン方式のドイツは12.0%であるのに対し,オプトアウト方式のフランスは99.9%と大きな違いが生じています

の部分。

つまり、人間の大部分は意思表示をしないということなのでしょうか。

もし、日本がオプトアウト方式を導入した途端、脳死臓器提供数が激増したらこれもまた日本人らしいなあって思うのでしょうか。

臓器移植の話は、倫理観も絡んでくるので簡単に解決する課題ではないのは明らかです。

再生医療という強力ではあるが不確定な未来を待つよりも今できることを個々がしていくことの重要性を講義を通して感じました。