こんにちは
今日は、共焦点顕微鏡という4000万円する顕微鏡の使い方を習ったこうせいです
さて、今回の記事ですが、タイトルにもある通り「大学で産学連携を推進することへの違和感」という内容です。
決して、産学連携を否定している訳ではありませんのであしからず。
なぜ、僕がこの内容を書こうと思ったのか。
それは、とある人とのやりとりで、
「ここの大学はだめだね。研究者が起業しようという意志が感じられない。」
そう僕に言い放った時、僕の中で何か得も言われぬ違和感を感じたからです。
まあその方は、研究はしたことがなく起業サイドの人なのでそういうのもポジショントークで仕方ないとは思いますが。
僕は、起業もしていますし(正確には登記準備中)、研究室で分子生物学の研究もしています。
どちらの業界の方のお話もたくさん聞いてきました。
そんな中で僕が感じているのは、
起業と研究はモチベーションの源泉が全く異なるということ。もっと言えば、この両者の業界の人がいう、「イノベーション」には大きな乖離があるということ。
イノベーションというレンジが広く、使いやすい言葉が大きな誤解を生んでいます。
(以降研究者というのは、僕が学んできた薬学や医学、分子生物学の研究者のことをさすことにします。比較的産業応用をしやすい機械系などの研究者は、おそらくまた違う部分があると思います。)
そもそも研究者は起業なんて全く興味がない人が多いと思う。それもそのはず。
企業に就職せずに、日本の恵まれない支援体制の中で、博士課程まで行って研究をしている人たちです。
純粋にサイエンスが好きなのです。
なぜこの遺伝子の発現が亢進しているのか、この細胞から出ている蛍光はどうしてここに局在するのか、なぜこのタンパクが発現するのか。
そういうことを一日中考えています。
ひとつ物事の真理がわかれば、また次の謎が同時にやってくる。さらに同じテーマで世界中の猛者たちが研究をしている。
世界で誰もしらない答えを見つけ出していく快感。
しかし、その中で、一番最初に論文として投稿しなければ自分の業績として認められないプレッシャー。
実績を出さないと今の自分のポストがいつまで続くかもわからない不安。
正直、産業化なんて二の次の人たちばかりでしょう。
そういう精鋭たちです。
僕が研究者と話していて感じたイノベーションの定義は、「人類の誰も知らない真理を見つけること」
それがすぐに人の役に立とうが立たまいが関係ないのです。
特に天文学や物理学などはその最たるものだと思っています。
オートファジーでノーベル医学生理学賞を受賞した大隅先生も「役に立つ」という指標で学術研究を評価するのではいけない。そう述べられている。
「『役に立つ』という言葉が社会をダメにしていると思っています。科学で役に立つということが、数年後に企業化できることと同義語みたいに使われているのは問題。本当に役に立つとわかるのは10年後かもしれないし、100年後かもしれない。将来を見据えて、科学を一つの文化として認めてくれるような社会にならないかなと強く願っています」
この大隅先生の言葉が研究者のいる世界をよく表していると思います。
かたや起業家。
起業家は、また思考回路が違う。というか全然違う。(まあ事業内容によりますが)
いかにユーザーのニーズを捉えるか。世の中の生活を変えることができるのか。お金を払ってでも欲しいと思ってもらえるのか。売り上げをあげられるのか。
そんな思考がまず第一にきます。
そりゃそうですよね。投資家にたくさんの出資をしてもらっている訳ですからいかに売り上げを立てて、会社の時価総額をあげていくか。
これが非常に重要な訳です。
つまりどれだけ人の役にたち、お金を生むことができるか。
そして、その結果として世の中の生活を変えることができるのか。
起業家のイノベーションの定義は、「いかに世の中を変えたか。」なんじゃないかと僕は感じています。
少なくとも誰も知らない真理を知ることとは違う。
あと決定的違いは、ビジネスは2番煎じでも市場がとれれば1番として名乗り出ることができる。
科学の場合は、2番以降は価値がない。
ここも決定的に違いますね。
だから、研究者に起業を促進すること自体が的外れなのです。
少なくとも研究者が内発的に起業したいと思う仕組みを作るのではなく、起業のメリットを適切に研究者に説明し、君の技術を僕に預けてくれないか?あとは僕がその技術で起業するから。そういう型をつくる方がいいんじゃないかと思います。
自分は今起業していて思うのですが、起業に興味がない研究者が起業に興味を持つ必要は全くない。むしろ起業している時間があれば、もっと研究して欲しい。
だから、冒頭で書いた、研究者が起業する意志がないから全くだめだねは、とんでもなく的外れ。
そもそも、研究とはなんたるやということを知らない世界で生きてきた人にそんな簡単に発言してほしくないと思った。
もちろん、たくさんの研究者と接して話をしてこられたとは思うが、自分で有機化合物を合成し、細胞を培養し、タンパクを抽出し、と手を動かさないと見えない価値観はある。
起業することでかかる時間的コスト、精神的コスト、金銭的コストはかなり大きい。自分で実際やってみて強く感じている。
さらに僕は、イノベーションの定義がごっちゃにならないように常に心がけている。どっちのイノベーションがいいとはではなく、方向性が違うから。
だからこそ、どこそこ大学が大学発ベンチャーを何社創業したからうちの大学もやらなくてはとかではなくて、自分の大学に在籍している研究者の良さを引き出していく産学連携の形であってほしいなと思った。
このブログを読んでくださる方には大学の職員の方もいらっしゃるので、なにをいち医学部生がと思うかもしれませんが、若者の主張を受け入れてくれる社会であってほしいと願っているのでここに書き残しておきます。